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【福井新聞】 ニホニウム 基礎科学の愚直さを見る

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 【論説】「ニホニウム」と日本の名を冠した新元素113番の誕生が日本の科学界に明るい話題を提供している。「日常生活には役に立たないが、アジアの一員の日本が発見者となり、元素の周期表に一席を占めたのは大きな意義」と、発見した理化学研究所チームリーダー森田浩介・九州大教授は笑顔で語り、研究は国民に支えられていたと感謝した。
 今後を「全力で応援したい」と応じた馳浩文部科学相だが、この10年余り、財政難だからと科学の基礎研究部門を冷遇してきたのは政府ではなかったか。成果があったからと喜び勇んで飛びつくだけでは、基礎科学の危うさは今後も解消できない。
 先月末まとまった今年の「科学技術白書」は、ノーベル賞の受賞者を増やす提案を特集している。取り上げた背景には、賞の対象となるような基礎研究が大幅に後退している状況認識が国にあるからだという。
 具体的には、博士課程を取る学生が年々減少、研究力の国際的な地位の低下、子どもたちにみられる理科離れなどを挙げている。文科省が2011年から5年間、大学と公的研究機関に行った意識調査でも、研究現場には適正な運営・管理に対する危機感が増大していることが分かった。
 経済全体に停滞感があるせいか、科学政策にも国は産業振興に早く結びつくような貢献を求めている。財政難を理由に研究機関の運営基盤となる交付金はどんどん減らし、研究者が競う流行を追うような分野には資金を増やしている。
 国立大の研究者にはかつて基盤的経費があり研究に没頭できた。歴代ノーベル賞学者らもその恩恵に浴している。交付金の削減でそのシステムは崩壊。手厚い支援の大学とそうでない大学の格差は広がり、新たな発見の母胎となる基礎研究で多様性、独創性が失われつつある。能力ある若い研究者が博士号から離れていくのも無理はない。
 基礎科学の危機的状況はノーベル賞を取るなどというレベルははるか遠く、社会を支える「知の力」が衰退していく深刻な事態を表している。目先の利益や即効性を優先する余り、国は科学への大局観を見失っているのではないか。科学の基礎、土台が崩れかけていると科学者、専門家が長年指摘してきたことである。
 ニホニウムの森田さんら理研チームの次の目標はより重い元素の発見である。予測されている寿命の長い元素の大発見につながる可能性があるという。実用にすぐにも役立つわけではないが、素朴な疑問を頼りに競い助け合いながら科学者が知の最前線を開拓している姿に健闘を祈りたい。
 森田さんは「科学者は愚直でありたい」と語った。ぶれずに一つの研究をひたすら続ける気持ちが伝わる。国の政策にも、(基礎科学を)真っすぐな心で支え続ける愚直さがほしい。

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