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【中日新聞】 若手に研究費をばらまけ 週のはじめに考える

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 軍学共同研究が話題になる一方で、基礎科学の危機が叫ばれています。「役に立つ」ばかりが研究目的ではありません。急減する若手研究者を支えたい。
 きっかけは、ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった大隅良典・東京工業大栄誉教授の訴えです。
 受賞決定直後の記者会見で、自らの研究について「人がやらないことをやろうと酵母の液胞の研究を始めた。がんにつながるとか、確信して始めたわけではない。基礎科学の重要性を強調したい」と話しました。 「役に立つ」の危うさ
 これを受けて全国の国立大理学部でつくる「国立大学法人理学部長会議」が先月三十一日、「基礎科学の推進は未来への投資」という声明を発表しました。基礎科学は今すぐ役に立つものではありませんから、企業から研究資金を得ることはできません。基本的に税金で賄われます。
 大隅さんは会見で「私の研究は、ほとんど文部科学省の科研費によって支えられたことにも感謝したい」と語りました。科研費は国の補助金です。家族への感謝よりも先に、成果は税金、つまり国民のおかげだと話したのです。
 一方で「科学が役に立つというのが、数年後に企業化できることと同義語になっている」と最近の風潮を批判しました。
 理学部長会議も声明の中で「『役に立つ』研究推進の大合唱が基礎科学を目指す若手の急激な減少をもたらしています」と警告しています。
 基礎科学はすぐに役立つことを目指しているのではありません。しかし、人類にとっては大事な知識を増やします。そして大隅さんの研究ががんなどの治療法として注目されるように、ある日、役に立つことも珍しくないのです。 1人に年間100万円を
 そうはいっても、限られた税金です。基礎科学を魅力的にする、よい方法があるのでしょうか。
 大隅さんは日刊工業新聞のインタビューで「年間百万円のお金があれば、やりたいことをやれる研究者が日本にはたくさんいる。もう少し研究費をばらまいてほしい」「小さな芽をたくさん育てなければ、大きなとんがった成果は生まれない。日本の国力なら十分できるはずだ」(十月五日同紙電子版)と述べています。
 百万円の科研費がノーベル賞に結び付いたことがあります。
 白川英樹・筑波大名誉教授は一九六九年、助手となって初めて科研費約百万円を得ました。テーマは「ポリアセチレンフィルムの半導体としての応用」。これが導電性ポリマーの開発につながり、二〇〇〇年に化学賞を受賞したのです。物価は違いますが、若手研究者を育てるのには研究費を渡すことが大事です。
 文部科学省は先月十三日、大学から支給される研究費が年百万円に満たない研究者が約八割とするアンケート結果を発表しました。
 ノーベル物理学賞を受賞した小林誠・名古屋大特別教授が「私と科研費」という文章の中で「理論物理学というと『紙と鉛筆があればお金はいらない研究ですね』とよく言われるが、ネットワーク環境の維持に相当の経費がかかり、国内外の学会に出席するための旅費、専門誌の購読料も必要だ」としています。
 「百万円」を必要とする研究者は多いのです。
 小さな芽をたくさん育てることの重要性もノーベル賞が教えてくれました。
 一昨年、ノーベル物理学賞を受賞したのは、青色発光ダイオード(LED)の開発でした。赤崎勇・名城大終身教授らは窒化ガリウムという素材で実用化に成功しました。青色LEDは世界中の研究者が開発競争をしていました。主流はセレン化亜鉛という別の物質でした。ある電機メーカーの開発担当重役は「世界がセレン化亜鉛で競争しているときに、別の物質を研究することはできない」と大企業の限界を語っていました。
 青色LEDは自由な研究ができる大学という環境だから生まれたのです。 「首相のおかげです」
 「ばらまく」というと刺激的です。でも、「選択と集中」と称して、流行の分野に大金を注ぎ込むよりもブレークスルーを生み出せそうではありませんか。
 もちろん、原資が必要です。
 防衛省が軍民両用の基礎研究費として百十億円要求しています。評判の悪い予算をやめて、文科省予算を増額すればよいのです。一万一千人に百万円ずつ配れます。
 決断できるのは安倍晋三首相だけです。首相は今年、大隅さんのノーベル賞受賞記者会見に割り込んでお祝いの電話をかけましたが、何年か先には「首相の決断のおかげです」と会見で感謝されるかもしれませんよ。  

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