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【河北新報】 残業上限規制決着/責任回避の労使丸投げでは

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 これで働く人たちの過労死・過労自殺がなくなるのかどうか、疑問と言うほかない。
 事実上、決着した残業時間の上限規制のことである。
 確かに罰則付きの規制導入は初めてのことだ。政府の働き方改革実現会議が月内にまとめる実行計画に盛り込み、政府は労働基準法改正に着手する。労基法70年の中で歴史的な改革には違いない。
 だが、安倍晋三首相は、電通の新入女性社員の過労自殺を挙げ「二度と悲劇を繰り返さないとの強い決意で」、長時間労働是正を働き方改革のテーマに据えたのではなかったか。「過労死ライン」とダブるような決着内容を見れば、その決意はどこへ行ったのかと言わざるを得ない。
 残業規制を巡っては、繁忙期の特例として年間720時間(月平均60時間)とする「総量規制」について実現会議は合意していた。
 残った難題が、繁忙期の月当たりの上限規制だ。1カ月に限って言えば、「100時間」との政府原案があり、合意を求められた経団連と連合の労使交渉は、この原案に沿って進むほかなかった。
 100時間を巡り経団連は「以下」、連合は「未満」を譲らず、結局は安倍首相の裁定で「未満」に決着した。
 月100時間は厚生労働省の脳・心臓疾患に関する労災認定基準の過労死ラインだ。この二つの言葉の違いは時間にすればわずか「1秒」にすぎず、実質変わりはない。
 2015年度の認定過労死96件のうち、残業が月100時間未満が54件に上ることを考えても、働く人の命と健康が守れるとは到底思えない。
 決着までの経緯を見ていて解せないのは、実現会議での安倍首相の言動である。
 上限規制について「多数決で決するものではない。労使にしっかり合意形成してもらう必要がある」と労使に丸投げし「合意がなければ、法律は出せない」と言い切った。
 経団連にとって人手不足に悩む中小企業のこともあり、100時間は譲れない線だ。連合にとって上限規制の導入は長年の悲願。その悲願が「人質」に取られた形で、実現のためには譲歩するしかなく「未満」との文言にこだわったように「条件闘争」を余儀なくされたのではないか。
 労働条件の決定は労使交渉が基本だとしても、労使任せではらちが明かないからこそ首相自らが是正に乗り出したはずだ。これでは、肝心のところで責任を回避したのではないかとの疑念を拭えない。
 規制導入は、過労死根絶に向けた「第一歩にすぎない」(神津里季生連合会長)。これを機に、残業の原則的な上限である月45時間に近づくよう労使の取り組みを求めたい。政府は違法なサービス残業にも目を光らす必要がある。
 今後の推移をにらみつつ政労使は、合意した5年後といわず上限規制を継続的に点検し見直していくべきだ。

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