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【中国新聞】 残業規制と春闘 「過労死ゼロ」に程遠い

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 今春闘で大手企業のベースアップは4年連続となった。ただ平均の上げ幅はこの間最小にとどまり、安倍政権の意向に沿う形の「官製春闘」は踊り場に差し掛かった感がある。
 賃上げだけが労使交渉ではない。働き方改革も今春闘の重要な論点になった。仕事は生活の一部である。体を壊したり命に関わるような長時間労働は見直さなければならない。
 残業時間の上限規制がようやく法制化される見通しだ。違反すればペナルティーを科す。政府の働き方改革実現会議は月内に実行計画をまとめる。改正されれば、労働基準法70年の中で歴史的な改革といえる。ただ、これで過労死や過労自殺がなくなるか、疑問が拭えない。
 繁忙期の残業上限を月100時間未満とすることで労使が合意した。経団連は「以下」の表現にこだわったが、安倍晋三首相の裁定で、連合の求める「未満」で合意した。100時間を1秒でも切ればいいという曖昧な線引きにすぎない。
 これでは深刻な事態を招く恐れがある。2015年に労災認定された過労死96件のうち54件は100時間未満だった。厚生労働省が労災認定基準とする過労死ラインは「月100時間、2〜6カ月平均月80時間超」だ。最低でも80時間を出発点とすべきだった。ラインぎりぎりでは、過労死をゼロにするには程遠いと言わざるを得ない。
 そもそも安倍政権の働き方改革は誰のためなのか。経済界は協力姿勢を見せている。しかし一連の議論を見る限りでは、労働力の確保が前提とも映る。現場で働く人から「働かせ方改革」にすぎないとの指摘が出るのも仕方あるまい。
 過労死した遺族らも怒りを隠さない。「長時間労働は健康に有害と政府は知っていて、なぜ法律で認めようとするのか」。過労自殺した電通女性社員の母親の声だ。「繁忙期なら命を落としてもいいのか」。政府、経団連、連合は重く受け止めねばならない。
 今回の議論では積み残しの課題も多かった。建設や運送業などは当面残業規制が適用されない。役職によっては対象から外れる人もいる。しわ寄せが一部に集中するようではいけない。
 十分な休息には「勤務間インターバル制度」が有効だ。仕事を終えてから次の勤務まで一定時間の休みを取る仕組みだ。今回は企業の努力義務にとどまった。専門家は事故やミスを防止する効果を指摘している。企業側も前向きに検討すべきだ。
 残業時間の上限規制は導入から5年以降の見直し規定が盛り込まれた。日本の企業文化を根底から見つめ直す機にしたい。
 上司が残業時間を少なく記録したり、社員の方も仕事を自宅に持ち帰ったりするケースが報告されている。働く人の健康や幸せが二の次になっていた感はある。人手不足は理由にならない。労使でじっくり議論し、業務の在り方を見直す時機を迎えているのだろう。
 長時間労働の是正は社会全体の課題でもある。育児に十分時間を割けないことが、少子化につながった面もある。介護離職もそうだ。これから労働基準監督署の監視は強まるはずだ。企業は摘発を恐れるより、働く社員の笑顔や幸せに目を向けるべきだ。

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