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【FinancialTimes】 すぐに忘れ去られる企業の悪評

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 米ユナイテッド航空のついてない日が、いまや顧客サービスや広報の面で同社の語り草の一部になっている。悪い意味で。およそ10日前、オーバーブッキング(過剰予約)の便に乗っていた乗客が座席を諦めるよう言われて拒否したところ、航空治安当局の係官によって強制的に血を流しながら引きずり降ろされる羽目になった。その一部始終はスマートフォンで録画された。さらに事態を悪化させたのは、同社のオスカー・ムニョス最高経営責任者(CEO)だった。同氏は当初、事件を軽く扱おうとしたうえ、乗客に非があると責任を転嫁した。こんな恐ろしい話は何十年と語り継がれるだろう。
■市場は利益に影響なしと結論 米ユナイテッド航空機の乗客が機内から引きずり降ろされた出来事も、同社の株価には大きな影響は与えていない(シカゴのオヘア国際空港に着陸したユナイテッド航空機)=ロイター
 次に注目すべきは、株式市場がこの信じがたいめちゃくちゃな出来事を、ユナイテッドの今後の利益にはほとんど影響しないと結論づけたことだ。むろん、同社の株価は事件以降、約5%下落しているが、変動の激しい航空業界ではそう大した下落ではない。同じ期間にユナイテッドの株価をライバルのデルタ航空と比べても、下落率はほぼ変わらない。
 これは、ある視点から見れば論理的といえる。実にひどいこの事件が直接的に影響を与えたのは、大勢の客のなかの、特定の一人の客だ。賠償金もささやかなものだろう。この事件はフォルクスワーゲン(VW)とは違う。ディーゼル車の排ガス検査で騒ぎになったVWは、何百万台もリコールせざるを得なくなり、結果的に数十億の制裁金を支払うことになるだろう。
 それでも、この事件は同社の企業文化の根深い欠点を反映して、顧客に対する野蛮で冷淡な姿勢を示していないだろうか。恐らくそうだろう。ネットには航空会社を変更しようと多くの文句が飛び交っている。だが結局のところ、正しいのはまさに市場のようだ。顧客が見るのは価格と利便性、空席があるかで、それが合えば使ってしまう。顧客が常に非人道的に扱われる可能性はこれまでも低かったうえ、いまやその可能性は一段と低くなりそうだ。利益という観点から考えれば、評判を損ねることは全く何の意味も持たないということなのかもしれない。
 ユナイテッドには、今回の事件で構造的な優位性がある。航空業界は企業の数が限られているため、航空会社を変えるのはより難しい。また、顧客基盤として非常に多様な顧客を相手にしており、ほとんどの人は手ごろな値段で行きたい場所に行ければ、どの航空会社を使うか気にすることはない。
■VWもサムスンも販売は安定
 しかし、論点はユナイテッドに限った話ではない。そう、VWは制裁金やリコールへの支払いを余儀なくされるだろう。だが、一旦制裁金が支払われたあとに、組織的に検査官を欺き、世間を危険にさらしたVW車に対する需要は限られるのだろうか。答えは今のところ「ノー」のようだ。VWが発表したばかりの2017年1~3月期暫定決算の利益は、VWブランドの自動車がけん引したおかげで市場予想を上回った。騒動の中心になった北米では、販売台数と売上高がずっと安定していた。顧客はそれほど大騒ぎしていないのだ。同様に、携帯電話のバッテリーが発火した韓国サムスン電子の事件も、同社の株価や、携帯電話を大量に販売する力には驚くほどの影響はなかったようだ。
 一部の業界ではこうはいかない。米エンロンの会計不正を見抜けなかった会計事務所アーサー・アンダーセンは復活を遂げられなかった。もっとも、会計事務所の顧客は企業が中心で、その「製品」はある意味、「評判」以外の何物でもない。
 もし企業の評判に与える深刻な打撃でさえも、多くの場合、それ自体が経済的にさほど重要でなかったとしたらどうだろう。この考えが広まってほしくない広報企業やブランドコンサルタントは間違いなく多くいる。だが、これではみんな戸惑うはずだ。顧客が最新製品で企業を喜んで判断してしまえば、経営者が利益を追求して健全な経営を踏み外す、悪い仕組みをおのずと作り出してしまう。
 とはいえ、プラスの可能性もある。もし顧客が利口にも過去の評判を振り返るようになれば、企業は愚かにも過去の栄光にすがるようになるのだ。優れた製品を作ることで、競合他社にも常に道は開かれている。資本主義で私たちみんなが豊かになるとはそういうことだ。

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