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【京都新聞】 「共謀罪」可決  監視社会招く懸念拭えない

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 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が衆院法務委員会で可決された。与党は民進党などの反対を押し切って採決した。
 戦前、治安維持法などによる思想弾圧が行われた反省から、人が心の中で何を考えても自由という「内心の自由」は、戦後民主主義の基本となってきた。改正案はそれを危うくしかねない。
 現行の刑法体系は犯罪行為の実行後の処罰を原則とするが、改正案は計画段階で処罰する。適用の基準が明確でなければ、捜査機関による乱用の危険がある。ところが、これまでの審議では基準の曖昧さがあらわになるばかりで、恣意(しい)的な運用や監視の強化などの恐れはむしろ強まっている。
 法案の必要性という根本的な問題さえ十分に議論されたとはいえない。共謀罪を新設する法案は過去3度国会に提出されたが「市民団体が処罰される恐れがある」などの批判で廃案になった。今回の法案も一から見直すべきだ。
 委員会審議は最初から日程ありきだった。与党は安倍晋三首相が出席するサミットなどの日程を見据え、審議時間を30時間程度としていた。これほどの重要法案にもかかわらず、審議内容より時間を優先させるのは強引にすぎる。
 与党と日本維新の会は、適正な捜査や捜査可視化の検討を明記する法案の一部修正で合意した。強行採決ではないとの印象を与えたい与党の思惑も透けるが、修正されても、審議が尽くされていないという懸念は拭えない。
 本当に新設が必要か
 「共謀罪」の新設について、政府は国際組織犯罪防止条約を締結するために必要だ、と説明してきた。条約は、国境を越える薬物や銃器の不正取引など、主にマフィアらによる経済的犯罪に対処するため設けられた。187の国・地域が締結し、未締結なのは日本など11カ国のみだ。ただ、政府は2020年の東京五輪・パラリンピックを控えたテロ対策を前面に打ち出して、国民が受け入れやすいイメージを先行させてきた。
 だが、本当に必要なのか異論がある。日弁連や法学者は、日本の法律にはすでに組織犯罪集団による犯罪を取り締まる「予備罪」があることから、共謀罪がなくても締結は可能、と指摘している。
 政府は、共謀罪を新設しなければ条約の義務を履行できないとする一方、対象犯罪は676から277に絞り込んだ。条約の規定を理由に「犯罪内容に応じて選別できない」としていた過去の答弁と異なるが、やはり条約規定に基づいて絞り込んだという。
 条約は、締結国に大きな裁量を与えているとの指摘がある。政府が共謀罪を新設するため、条約を都合よく解釈していないか、さらなる検証が不可欠だ。
 拡大解釈を許す恐れ
 対象犯罪の絞り方も不可解だ。森林法違反や刑法の墳墓発掘死体損壊など、テロとの関連が薄いものが含まれる一方、公選法や政治資金規正法などは除外された。
 中でも不安が大きいのは、適用対象の曖昧さだ。
 「共謀罪」の対象は、暴力団やテロ組織など「組織的犯罪集団」と規定され、2人以上で犯罪を計画し、少なくとも1人が資金の手配や関係場所の下見などの「準備行為」をした時、計画に合意した全員が処罰される。
 一般市民が対象になることはない、というのが政府の説明だ。
 しかし、組織的犯罪集団の認定には、犯罪の常習性や反復継続性が要件となっていないため、恣意的に解釈される余地がある。法務副大臣が「一般人も捜査対象になる。嫌疑が向けられた段階で一般人ではない」と答弁し、大臣と見解が食い違う場面もあった。
 準備行為も明確ではない。散歩や銀行で現金を下ろすなどの日常生活の場面と区別できるのだろうか。政府は「携帯品などの外形的な事情から区別されうる」と答弁するが、そう簡単ではあるまい。結局、内心に踏み込んで判断せざるをえないのではないか。
 条文に歯止めがない限り、将来的に拡大解釈される可能性があると考えるべきだ。
 捜査には裁判所のチェックがあるというが、現行制度が冤罪(えんざい)や不当逮捕を防ぎえていない事実から目をそらしてはならない。
 捜査の肥大化に懸念
 与党は採決にあたり「十分に論点を踏まえている」との認識を示したが、あまりにも無責任な態度といわざるをえない。
 治安維持法が立法時には「善良な国民」は対象にならないと説明されていたことを忘れてはなるまい。安倍首相は「戦前の旧憲法下における法制で、そういうイメージをするのは間違っている」と述べたが、果たしてそうだろうか。
 犯罪実行前に自首した場合は刑を減免する規定は「密告を奨励する」との批判がある。共謀の立証は困難と見られるため、捜査手法の拡大も懸念される。捜査の肥大化は市民を萎縮させる。
 数多い疑問が解消されないまま「共謀罪」が導入されれば、思想の自由やプライバシーを脅かす監視社会を招く恐れが大きい。将来に禍根を残してはならない。

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