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【北海道新聞】 芥川賞・直木賞 「地方発の文学」もっと

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 第157回芥川賞に小樽市生まれの沼田真佑(しんすけ)さんの「影裏(えいり)」、直木賞に北大中退の佐藤正午(しょうご)さんの「月の満ち欠け」が決まった。
 そろって北海道ゆかりの作家という朗報に、道内の書店や図書館、文学館にも喜びが広がる。
 沼田さんは盛岡市在住の38歳、佐藤さんは長崎県佐世保市在住の61歳。ともに地方を拠点とする。
 両賞は近年、地方在住の作家の受賞が増え、その土地独自の視点に立つ作品が注目されている。
 今回の快挙は、地元の文芸に対する道民の関心を高めるきっかけとなるに違いない。2人の受賞を祝福するとともに、地方発の文学の魅力を見直す機会としたい。
 沼田さんの「影裏」はデビュー作。岩手の豊かな自然と東日本大震災を背景に、釣り仲間を巡る喪失の物語を繊細に描いた。
 佐藤さんは作家生活34年のベテランで、初の候補入りだった。「月の満ち欠け」は、生まれ変わりをモチーフにした恋愛小説だ。
 沼田さんは各地を転々として育った。母親の実家があり、子ども時代に毎年帰省していた小樽を、故郷のようだと語る。
 佐藤さんは1974年から5年半、北大に在籍した。読書に明け暮れた末に1編の小説を書き、作家になるべく帰郷したという。
 ともに、短いながらも凝縮された時間だったことがうかがえる。作家人生の助走期間を受け止める北海道の懐の深さは、もっと評価されていいのではないか。
 北海道ゆかりの作家は、前回の芥川賞を富良野塾出身の山下澄人さんが、2013年に直木賞を釧路市出身、江別市在住の桜木紫乃さんが受賞したばかりだ。
 両賞に限らず、さまざまな文学賞で存在感を増している。
 札幌市在住の池澤夏樹さんや藤堂志津子さん、根室管内中標津町に仕事場がある佐々木譲さんをはじめ、全国に多くのファンをもちながら、受賞後も道内に拠点を置く作家も少なくない。
 インターネットの普及で世界が均質化する中、地方の風土に根ざした暮らしを描く作品はますます重要になるはずだ。
 震災の影を負った「影裏」のように、五輪に向かう東京とは異なる風景を読者に見せてくれる。
 他の道内ゆかりの作家たちにもあらためてスポットをあてたい。
 北海道立文学館では、道内文学を育んだ同人誌を紹介する特別展も開かれている。こうした地道な活動も、文芸の土壌を豊かにするためには大切だ。

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