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【日経新聞】 人の力をいかす日本へ(3)社会人の技能高める環境整備を

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 人がより高いレベルの仕事をこなせるようになり、国全体の生産性が高まっていく。そんな回転に入るための基礎になるのは、働き手自身の能力の向上だ。
 1人の生む付加価値を高め、人手不足でも持続的に経済を成長させるために、働く人の能力開発に重点的に取り組むときだ。 「社内失業」400万人
 失業率など雇用指標は改善しているが、自らの技能を伸ばす機会に恵まれていない人は多い。技能が高まらなければ賃金の増加も望みにくい。総務省の労働力調査によれば、教育訓練の機会が少ない非正規社員で不本意ながら働いている人は2016年に297万人と非正規全体の16%を占める。
 企業が新卒採用を絞った「就職氷河期」世代といわれる30代後半から40代半ばの層は、ほかの年齢層と比べて非正規雇用の比率が高い。「消費の中心的な担い手になった氷河期世代の所得が低いままだと経済への影響が大きい」と、日本総合研究所の下田裕介副主任研究員は指摘する。
 企業の成熟分野からの撤退が進むなどで「社内失業」状態になり、仕事を通じて自分の力を高める機会が減ってしまう人が増えている問題もある。リクルートワークス研究所の試算では、事業活動に活用されていない社員を指す「雇用保蔵者」は15年に401万人と10年前の約4倍になった。
 働き手が技量のレベルを上げたり別の分野の技能を身につけたりすることで、正社員登用、賃金増や待遇の良い企業への転職へとつなげていける環境をつくることが急務だ。
 まず求められるのは、企業が教育訓練に力を入れ直すことだ。厚生労働省の就労条件総合調査によると、1人の従業員に企業がかける教育訓練費は16年に月平均1008円と、06年の3分の2に減っている。働き手への投資が競争力の底上げにつながることに経営者は改めて目を向けてほしい。
 同時に重要なのが、仕事に必要な知識や技能を習得する職業訓練や、大学などでの社会人教育を充実させることだ。安倍政権が掲げる人材育成政策「人づくり革命」で、ぜひ力を入れてほしい点だ。
 日本の人材育成は特定の企業でしか役立たない「企業特殊的」な技能の習得に偏ってきた。ほかの企業でも通用する一般的技能にも力点を置かねばならない。
 グローバル化や技術革新など環境変化によって、働き手に求められる能力も変わる。社会から求められる知識や技能に、働き手の能力が追いつかないミスマッチをなくしていかなくてはならない。
 国や都道府県による公共職業訓練は第1に、失業者向けが中心の教育課程を見直し、在職者が働きながら学びやすいコースをもっと拡充すべきだ。
 公共職業訓練は1950年代末に炭鉱の人員整理による失業対策として始まり、現在も失業者向けに、時間帯は午前から夕刻まで、期間は半年から1年といったコースがざらだ。在職者向けに退社後の時間帯の短期講座を広げたり、ネットと情報機器を使って自宅や出先で学べるオンライン講座を設けたりしてはどうか。 在職者訓練を広げよ
 第2に、産業構造の変化とともに訓練内容を見直し続ける必要がある。政府は情報セキュリティーなどの知識を備えた人材を育てるためIT(情報技術)分野の講座を拡充する方針で、これは妥当だろう。ただ講座の新陳代謝を促すには、そのための工夫が要る。
 民間への訓練の委託をさらに広げ、たとえばバウチャー(利用券)方式によって受講者が自由に講座を選べる仕組みにすれば、事業者間の競争が活発になり訓練の質が高まる。介護などサービス分野の訓練も充実させやすくなる。
 肝要なのは民間の力を活用して効果をあげる視点である。大学の社会人講座も財務やマーケティングといった科目に加え、企業の商品開発やM&A(合併・買収)などの第一線にいる人を講師に招くことで、実践的な教育ができるだろう。企業に受講者を受け入れてもらうインターンシップ(就業体験)も広げられないか。
 社会人が学びの時間を確保するため、働き方改革は欠かせない。企業と社員が協力し、生産性を高めながら残業削減や休暇の取得増に取り組む必要がある。働き方改革と人材養成を両輪で進めたい。

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