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【朝日新聞】 スーチー氏 迫害許さず民族融和を

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 民主化運動の象徴であるアウンサンスーチー氏の率いる政府が、なぜ国内の少数派の人権にこれほど鈍感なのか。そう思わせる事態である。
 仏教徒が9割近いミャンマーで、少数派のイスラム教徒ロヒンギャと軍の治安部隊の衝突による混乱が深まっている。
 死者は400人を超え、女性や子どもを含む7万人以上が隣国バングラデシュに逃れた。
 きっかけは8月下旬にロヒンギャの武装集団が警察施設を襲撃したことだ。それ自体は許されることではない。
 だが事件後、治安部隊が一般住民も巻き込んだ力ずくの掃討作戦に出たのは行き過ぎである。国連事務総長が「部隊の過剰な行動を深く憂慮する」との声明を出したのは当然だ。
 国外にも波紋が広がる。イスラム教徒の多いマレーシアやインドネシアでは抗議デモが起きた。放置すれば仏教とイスラム教の宗教間の対立にも発展しかねない。「イスラム教の同胞を守れ」と、国外の過激派に介入の口実を与える懸念もある。
 ところがスーチー氏からは問題解決に向けた発言が聞こえてこない。肩書は国家顧問兼外相だが、事実上の政権トップである。軍事政権にあらがい、民主化運動を率いてノーベル平和賞を受けた経歴の持ち主である。軍に自制を促し、民族融和を図る努力を強く求めたい。
 スーチー氏は、ロヒンギャ問題に以前から後ろ向きだった。軍による弾圧は過去にも国連から「人道に対する犯罪の可能性が高い」と指摘されてきた。国連人権理事会は今年3月に現地調査団の派遣を決めたが、スーチー氏は受け入れを拒んだ。
 ミャンマーは2011年に民政に移ったが、憲法上、国防や治安をめぐる決定権は国軍総司令官が握る。半世紀にわたり政治を支配した軍の影響力は、いまだ官僚機構の隅々に及ぶ。
 スーチー氏の苦しい立場は分かるが、もし軍に配慮して人権侵害に口をつぐむのなら、民主化の進展を期待する国民や国際社会は裏切られた思いだろう。
 ロヒンギャは西部ラカイン州を中心に100万人ほどが暮らす。政府は不法移民として国籍を与えず、参政権や移動の自由が認められていないことから、時に不満が暴発してきた。
 アナン元国連事務総長がトップの政府諮問委員会は先月、軍事力は平和を生まないと警告し、国籍の付与などで人権状況を改善するよう勧告した。スーチー氏は民主化指導者としての理念を取り戻し、まずは勧告の実現に力を尽くすべきだ。

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