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【佐賀新聞】 無届け臍帯血移植

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 他人の臍帯血(さいたいけつ)を違法に患者に移植していたとして、医師ら6人が再生医療安全性確保法違反の疑いで逮捕された。
 リスクが高い医療行為であるにもかかわらず、厚生労働省が認めた委員会で審査を受け、同省に届け出るという定められた手続きを踏まなかったというのが直接の容疑。
 安全性に問題がある移植が行われていた疑いも指摘されている。捜査で実態を明らかにするとともに、安全性や有効性に問題がある類似の医療行為から患者を守るため、再生医療に関する現行の規制や患者への情報提供の問題点を洗い出し、早急に対策を進めるべきだ。
 臍帯血は、赤ちゃんのへその緒や胎盤から採取される血液で、さまざまな血液細胞に成長できる幹細胞を多く含む。臍帯血移植は白血病などの治療法として確立しているが、容疑者らは、別のがんの治療や美容目的など、効果未確認の移植を行っていたとされる。
 再生医療安全性確保法は2014年施行。自由診療で幹細胞の移植を受けた患者が死亡した問題などをきっかけに検討が進み、今回が初の刑事摘発だ。
 同法がなければ、医師と患者の合意の下で行われる自由診療に当局のメスが入ることは、深刻な健康被害が明らかになるなどしない限り考えにくかった。法は一定の役割を果たしたと言える。
 一方で、現行の規制に深刻な不備があることもはっきりした。移植に使われた臍帯血は、09年に経営破綻した民間の臍帯血バンクから流出したものだとされる。
 国内には、白血病患者らの治療に使うため、産婦から任意で提供を受けた臍帯血を保存する公的バンクが複数ある。これらは法に基づく許可制で、臍帯血の品質確保のための基準もあるが、他人への移植を前提とせずに有償で臍帯血を預かる民間バンクは規制の対象外。破綻時の対応も業者任せで、保管方法に問題があれば、健康被害に結びつく可能性がある。
 日本で人工多能性幹細胞(iPS細胞)が開発されたこともあり、再生医療の研究は国が積極的に推進し日々のニュースにも登場する。それだけに患者の期待も膨らむが、多くの再生医療はまだ研究段階にあり、長期の効果やマイナス面ははっきりしていない。
 そうした現状での大きな問題は、再生医療と称し患者に提案される個別の自由診療の安全性や有効性について、患者自身が判断できる材料が非常に乏しいことだ。
 再生医療安全性確保法は「認定再生医療等委員会」と呼ばれる委員会が治療計画を事前に審査することで一定の安全性などを担保する仕組みだが、委員会の審査の質にはばらつきがあることや、治療後のフォローが十分なのかといった疑問も指摘されている。改善が急務だ。
 患者が自由診療の具体的な中身を他の医療機関と比較することも難しい。厚労省は、再生医療に携わる医療機関の情報提供を、患者に役立つ形に見直す必要がある。
 日本再生医療学会は、一般の人から再生医療の相談を受け付ける窓口を開設する方針を決めた。これも実施を急いでほしい。患者が相談したり、疑問を寄せたりしやすい仕組みを常設することは、患者を助けるだけでなく、問題ある医療機関の情報を、学会や当局が把握するにも有益だ。(共同通信・吉本明美)

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