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E135-KIRYU

【桐生タイムス】 後進のための道しるべ

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 障害者の社会参加を前進させてきた力は、そのハンディと向き合いつつ、自立を目指して可能性を切り開いてきた人々の頑張りである。この姿こそが世の理解を深めていったことを、一冊の本を読んで確信した。
 表題は「可能性に挑んだ聴覚障害者」。特定非営利活動法人みみより会が2005年に出版した50周年の記念本である。
 この中に「老人ホームの栄養士として」という一文を寄せている福田悠美子さんは、桐生で長年、点訳奉仕活動を続けてこられた方である。2歳のときに患った病で難聴になった。
 栄養士試験を受けたいと思ったのは高校卒業のころだ。幾つかの就職試験を受けたが、どれも最終面接で落ちた。当時は障害を持っているだけで就職には不利だった。栄養士試験にはその面接がなかったのである。
 桐生市の栄養給食研究所の臨時雇いで受験資格の実務見習いを積み、仕事が終わると図書館に通い、2年後、国家資格を得て市の老人施設に採用され、福祉の道へ第一歩を踏み出した。
 赴任初日、福田さんが「私は耳がよく聞こえません。よろしく」とあいさつすると、みんなが笑った。耳が不自由なことを笑われ、すっかり気落ちしていたら、その様子に気づいて何人かの老人が追ってきて「ワシも耳が遠くてね」と、わざわざ言いに来てくれた。「ここではみんな同じ」という親しみを込めた笑いであることを知った。うれしかったという。
 職場に恵まれた。施設長は福田さんができないことをよく理解してくれて、その代わり、仕事面では他の人と区別なく何でもやらせてもらい、いろいろ学ぶことができたそうである。
 昨年一度お会いし、お話をうかがった。要約筆記の力は借りたが、こちらの口の動きを読んでくれたので、会話はすべて福田さんのおかげで成立した。
 「どんな障害でも、抱えた人はそれぞれに大変であることをわかってもらえたら」。障害者の苦悩を、血の通ったことばで世の中に発信できる人だった。
 福田さんが自立の夢に向かって力強く歩んだ姿と、点字図書の充実のためにひたすら励んだ日々は、可能性を信じ、挑戦する後進のための道しるべだ。
 享年84。6日付6面「福田悠美子さんを偲んで」という大塚熙さん(元桐生市立点字図書館長)の寄稿を読みながら、心静かに合掌し、ご冥福を祈った。

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