Home > 社説 > 地方紙 > 九州・沖縄地方 > 熊本日日新聞(熊本県) > 【熊本日日新聞】 桐生選手9秒台 さらなる高み目指したい
e275-kumamoto

【熊本日日新聞】 桐生選手9秒台 さらなる高み目指したい

そう思わないそう思う (まだ投票していません)
Loading...

 並み居る日本のエースがはね返されてきた厚い壁を桐生祥秀選手(東洋大)がとうとう打ち破った。福井県で行われた陸上日本学生対校選手権の男子100メートル決勝で、桐生選手は日本選手として史上初めてとなる10秒の壁を破り、9秒98をマークした。21歳の若者の歴史的な快挙に大きな拍手を送りたい。
 身長176センチと決して大柄ではない桐生選手の持ち味は世界有数の高速ピッチである。この日の走りも抜群の加速が光った。
 陸上男子100メートルと言えば、全五輪競技の中でも「地球上、最も速く走る人間を決めるレース」として注目度の高い種目である。ただ、これまで日本選手は体力的に恵まれず、いくら走りの技術を磨いても世界に太刀打ちできないと言われてきた。
 ウサイン・ボルト選手の世界記録9秒58に対して、これまでの日本記録は伊東浩司さんが1998年のアジア大会で出した10秒00。その後も末續慎吾選手が10秒03に迫るなどしたが、あと一歩及ばない状況が続いてきた。
 桐生選手の快走で壁を乗り越えたことは優れた技術が肉体的なハンディを補い、世界レベルに近づけることを証明したのではないか。日本の短距離陣にとどまらず、アジア各国の若者にも大きな勇気を与えよう。
 国内でレベルの高い競り合いが続いていることも壁を打ち破った原動力になった。山県亮太選手(セイコーホールディングス)は3月に10秒06をマーク。追い風参考記録ながら、ケンブリッジ飛鳥選手(ナイキ)が4月に9秒98、多田修平選手(関学大)が9秒94をそれぞれ出しており、日本陸連幹部は9秒台が「いつでも出る状態」とみていた。今回の桐生選手の走りに感化され、これら有力選手の一層の奮起を期待したい。
 桐生選手は中学生のときに本格的に短距離走に取り組み、すぐに豊かな才能を発揮した。日本選手で頂点に最も近い男と言われてきたのも4年前に10秒01の自己ベストを出したからだ。ただ、リオデジャネイロ五輪の400メートルリレーで銀メダルに輝き脚光を浴びたものの、肝心の100メートルでは日本勢でただ一人予選落ち。巻き返しを狙った今年も日本選手権で4位にとどまるなど、何度も失意を味わってきた。
 今回の大会は大学時代最後となる100メートル走で、そこでの記録樹立は何よりの喜びだろう。とはいえ桐生選手自身が語っているように、ようやく世界のスタートラインに立った段階にすぎない。今後、さらに記録を伸ばして高みを目指すためには強豪がそろう米国や欧州のレースへの出場を続け、経験を積むことが欠かせまい。
 スタートと、それに続く序盤の走りで技術をさらに磨き、独自の走りのスタイルを築いてもらいたい。視野をさらに広げて世界の強豪と交流し、相手から認められるようになったとき、桐生選手はどんな大舞台でも平常心でレースに臨める存在となるはずだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。