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【桐生タイムス】 やめるための準備

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 陶器を扱う小売店で立ち話をした。店を開いて半世紀以上が経過し、商う夫婦はともに70歳を超えた。子どもたちはとうに独立し、自分たちも残りの人生を後悔しないように過ごそうと、今まさに店じまいの作業に取り組んでいるのだという。
 2年前に仕入れをやめ、「売り切れ御免」で在庫品の整理を進めている。冠婚葬祭の行事をそれぞれの自宅で執り行っていた時代には、各家に20個30個とまとまった数の湯飲み茶碗、ご飯茶碗、汁椀などの備えがあった。世帯が増えればその分、まとまった陶器の需要も発生したのだと、店主は懐かしがる。
 周辺の地域には事業所や食堂も多かった。通信手段は多くなく、人と人とが顔を合わせてはこまめに対話を重ねていた時代のことである。定番の湯飲み茶碗に緑茶をそそいでは客人をもてなす風景が当たり前だった。
 その後、冠婚葬祭の行事は自宅を離れ、セットものの陶器需要は大幅に減った。家族も小さくなった。安値競争は激しく、100円均一の商品が受け入れられる時代を迎えた。店をたたむにはいい頃合いだというのだ。
 何かに区切りをつけるとき、そのタイミングを図るのは難しいはずだが、先を見据えて準備をしながら潮目をとらえ、これまでの事業に見切りをつけるといった事例に遭遇する機会が、このところ増えている。
 先日活動停止を発表した相商連サービス会もその一つ。相生地区の小売店が加盟する任意団体で、40年にわたり顧客サービスの向上や会員・地域経済の発展に努めてきた歴史がある。
 ただ、会員数は最盛期の3分の1を割り込み、会では5年ほど前から活動停止に向けて徐々に整理を進めてきた。80年代にイベントとして実施していた「現金のつかみ取り」などは開催すればおそらく今でも盛り上がるだろうと、会長の常見三千男さんは話すのだが、それでも一つの役目を終えたのだと、無理をせず終幕の準備を進める。
 活動を始めた頃、商店街振興組合にならないかと各方面から勧められた。身の丈にあった活動をしていこうと任意団体にとどまったことが、今となっては助かっているのだと、そんな感想ももらしていた。活動停止を惜しむ声も耳にするが、先を見据え、どこかで一つの区切りをつけることも大切な作業。
 柔らかな着地を試みる商人の目算に、学ぶべきことは多い。

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