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【信濃毎日新聞】 衆院選に問う 北朝鮮対応 政争の具にする危うさ

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 「今後ともあらゆる手段で圧力を最大限まで高める」
 安倍晋三首相が衆院解散を表明した記者会見で語った言葉だ。
 北朝鮮の弾道ミサイル発射や核実験による挑発行為を「国難」と断じた。自民党が発表した公約でも柱の一つとして同様の表現が使われている。
 首相が言うように脅威が差し迫っているのなら、選挙で政治空白をつくっていいのだろうか。超党派で知恵を絞り、あらゆる外交資源を注いで状況を改善する道を探るべきではないか。
 
 
 <「国難」への違和感>
 公約では全ての核・弾道ミサイル計画の放棄を目指す、ともしている。どう実現するのか、道筋や具体策を示していない。各国と連携し、日本は緊張緩和や核放棄のために何ができるかが問われているのに、圧力強化主導の訴えばかりが突出している。
 首相が政局優先で、北朝鮮問題を選挙に利用しようと考えたと批判されても仕方ない。
 国際的に取り組むべき重要課題を「政争の具」にしたとすれば問題は大きい。国民の不安や危機感をあおっている。
 国連安全保障理事会の決議を無視し、核・ミサイル開発を進める北朝鮮に非があるのは言うまでもない。なぜ挑発を重ね、どの程度の脅威なのか。首相は肝心なことを語ってはいない。
 歴史的な経緯や国際情勢抜きにしっかりした対応を練ることはできない。冷静な判断をするためにも背景を押さえたい。
 北朝鮮が核にこだわるようになった要因として、まず朝鮮戦争(1950〜53年)が挙げられる。韓国を米軍主体の国連軍が、北朝鮮を中国軍などが支援し、戦況は膠着(こうちゃく)状態となった。結局、休戦協定に至ったものの、国際法上は今も戦争状態が続いている。北朝鮮から見れば、韓国や米国に対抗できる構えを常に迫られてきたことを意味する。
 また、東西冷戦時代に長く続いた中国と旧ソ連の対立も無視できない。北朝鮮はどちらにも頼ることができないと考えた。他国の干渉を排し、独自の社会主義路線を進める「主体思想」や、軍事力強化を最優先とする「先軍思想」が指導理念になった。
 切り札とされたのが核・ミサイル開発である。米国が当時、韓国に配備していた核兵器に対抗する狙いもあった。金正日総書記が父親の金日成主席の存命中から主導したと言われ、3代世襲の金正恩朝鮮労働党委員長が引き継いだ。核は体制維持と切っても切れない関係になっている。
 日本政府内では北朝鮮が攻撃を仕掛けない限り、米軍による武力行使は現実味を帯びないとの見方が強いとされる。米の「核の傘」と、北朝鮮を圧倒的にしのぐ通常戦力があるからだ。
 
 
 <加速する米への追従>
 その抑止力が日本を守ってくれる。だから、米国に付き従っているのが得策―。こんな考えが安倍政権の北朝鮮に対する強気の姿勢を支えているとみていい。安倍首相は先月、国連総会の演説で「必要なのは対話でなく、圧力だ」と言い切っている。
 北朝鮮は日本列島の上空を通過する弾道ミサイルの発射を繰り返し、太平洋上での水爆実験にも言及するようになった。
 安倍政権が米国に同調し、追随するほどに緊張を高めている面を見過ごすことはできない。このままではトランプ米大統領の出方に命運を託すしかなくなる。
 トランプ氏は当初、金正恩氏との対話に前向きな姿勢を示していた。相次ぐ弾道ミサイルの発射や核実験の威力増大を目の当たりにすると、「北朝鮮を完全に破壊する」などと威嚇のトーンを強めている。北朝鮮との非難の応酬は激しくなる一方だ。
 双方がメッセージを読み違えれば、不測の事態を招くこともあり得る。安倍政権は国民の幅広い理解を得ず、集団的自衛権行使を解禁した安全保障法制を整えた。これを根拠に、自衛隊が米軍の手足として利用される恐れがあることも考えねばなるまい。
 
 
 <リスクを高める恐れ>
 自民の公約は「拉致問題の解決に全力を尽くす」「国民保護を最優先」ともしている。圧力強化路線だけで、これらが実現できるのだろうか。むしろ、北朝鮮を刺激するのではないか。拉致問題の解決をより難しくし、リスクを高める恐れさえある。
 北朝鮮の核問題は一朝一夕では解決できない。軍事衝突が起きれば、韓国も日本も甚大な被害を受けることが想定される。核放棄は交渉で段階的に進めるしかないのではないか。
 選挙になった以上、北朝鮮問題を争点化し、危機感をあおる安倍首相の政治姿勢や外交・安保政策をただす機会としたい。野党も北朝鮮との向き合い方に関し、見解を示さねばならない。 (10月6日)

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