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【中国新聞】 座間9遺体事件 背景に若者の自殺願望

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 血も凍るような惨劇である。神奈川県座間市でアパートの一室から男女9人分の切断遺体が見つかり、この部屋に住んでいた27歳の男が死体遺棄の疑いで逮捕された。
 部屋に置いてあったクーラーボックスや工具用の箱のうち7個には、ばらばらにされた遺体が入っていたという。つまり男は、亡きがらとそれが放つ異臭に取り巻かれる中で過ごしていたことになる。常軌を逸しているとしか思えない。
 8人は女性とみられ、乱暴や金銭が殺害目的だったと供述しているようだが、あまりにも異様な犯行である。捜査陣はうのみにはすまい。動機を徹底して解明してもらいたい。
 容疑者の男は今年8月から現場のアパートに入居していた。引っ越し直後から2カ月余りの間に、9人の殺害と切断遺体の遺棄を繰り返した疑いが濃い。女性らを誘い込む「犯行部屋」として借りたのではないか。
 不可解なことに、男は殺害相手の身元どころか、名前もろくに知らなかったという。なぜ被害者たちが次々と毒牙にかかってしまったのかについては、接点が浮き彫りとなりつつある。会員制交流サイト(SNS)のツイッターを通じ、容疑者と知り合ったというのだ。
 被害女性の大半は、自殺願望を抱えていたとみられている。男も「自殺を手伝うと伝えて自宅に連れ込み、殺害した」と供述している。
 つぶやきを投稿できるツイッターは、周りに話せない内容でも気軽に書き込め、知り合った相手にじかにメッセージを送れる。身元を隠してやりとりできることから心理的な壁が取り払われやすく、無防備となりやすい。ネット社会に横たわる「落とし穴」と言えよう。
 容疑者の男は、あたかも釣り餌のように「#自殺願望」といったハッシュタグを使い、思い詰める女性を引っ掛けては連絡を取ったのではないかと目されている。親身に寄り添うふりをして、弱みに付け込んだとすれば卑劣極まりない。
 一方で、今回の事件は、友達など周りにも家族にもすがることができずに苦しんでいる若者たちが、これほど大勢いることに改めて気付かせた。
 厚生労働省の自殺対策白書によれば、自殺者の数が年間3万人台で高止まりしていた時期を脱したものの、昨年は依然、2万2千人近くに上った。しかも15〜39歳では死因の1位が自殺で、若者が置かれている深刻な状況は変わっていない。
 また、厚労省による昨年調査で「自殺したいと思ったことがある」との回答は成人男女の約4分の1を占め、相談ダイヤルなどの行政施策が知られていない実態も明らかになった。
 思い余った末、行き着く最後のよすががSNSだとするなら、野放し同然の現状を放置しておくわけにはいくまい。言論の自由や表現の自由と折り合いが付く形で、事件の再発防止に手を打つ必要がある。
 家族や学校、地域でもいま一度、再点検すべきだろう。かすかなSOSを見逃し、聞き逃してはいないか。「救いの手」がなぜ届かないのか。とりわけ保護者は、未成年の時点からスマートフォンやパソコンを使わせるなら、「落とし穴」について無知では済まされない。

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