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【中国新聞】 建設石綿被害の高裁判決 国は幅広い救済制度を

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 被害者救済が司法判断の流れとなったことは喜ばしい。建設現場でアスベスト(石綿)を吸い、健康被害を受けたとして、元労働者や遺族が国と建材メーカーの責任を追及している集団訴訟の控訴審判決。先月下旬、東京高裁は国とメーカーの一部に賠償を命じたのである。
 全国各地で起こされた一連の訴訟のうち、初の高裁判断となった。原告が全面敗訴した一審の横浜地裁判決を取り消したことは画期的だといえよう。
 裁判長は「医学的知見などから、国は1980年ごろには石綿による健康被害のリスクが生じていることを把握できた」とし、遅くとも81年までに防じんマスクの使用を罰則付きで義務付けるべきだったと指摘した。メーカーの賠償責任を巡る判断は各地裁で分かれたものの、規制権限を行使しなかった国には責任があるとする司法判断の流れは定着したといえよう。
 安価で耐火性や断熱性に優れた石綿は、高度成長期を中心に建材や断熱材などに幅広く使われたが、極細繊維を吸い込むと肺がんや中皮腫などを発症する。環境経済学者の宮本憲一・元滋賀大学長は、石綿被害は世界共通にして史上最大の産業災害であり、複合型ストック災害であると定義する。
 複合型とは、石綿製品の工場だけでなくその周辺地域、輸送や荷役の現場、製品が使われていた現場、産業廃棄物処理や建物解体の現場など、あらゆる段階で健康被害を及ぼしかねないからである。また、ストックとは、発症までの潜伏期間が数十年と長いことに加え、事業活動が停止しても有害物質は蓄積されたまま「静かな時限爆弾」になり得る災害だからだ。
 石綿を扱う建設労働者は現場で建材を切断したり、壁や天井に吹き付けたりしていた。だが、その多くはさまざまな現場を渡り歩き、潜伏期間の長さもあって、どこで、どのメーカーの建材が発症の原因になったか判別するのが難しい。さらに労働者と変わらない働き方をしながらも、法律上は労働者の扱いを受けないため国の賠償責任が認められない、いわゆる「一人親方」も少なからずいる。
 従って石綿被害は司法による解決で済む問題ではあるまい。これまでの地裁判決の中には、メーカーへの賠償請求は退けた上で「国と建材メーカーが何らかの制度を創設する必要がある」と指摘した例もある。
 宮本氏によると、93年から99年にかけてドイツ、イタリア、フランス、英国などで石綿使用が全面禁止されたのに対し、日本では90年代まで輸入のピークが続いたという。大手機械メーカー、クボタの旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺住民が健康被害を受けていることが明るみに出た「クボタ・ショック」を経て、2006年にやっと全面禁止になった。
 先進国の中でも規制に後れを取った日本では、被害のピークが20年代になると予測されている。安全管理を怠った原因企業の責任は大きいものの、政治の無策も指弾されるべきだ。
 06年に石綿健康被害救済法が施行されたが、被害者からすると不十分だとの意見は根強い。国の責任を認める司法判断を重く受け止め、国は幅広い救済制度の創設に取り組むことが強く求められる。

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