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【岩手日報】 入所者の殺害事件 介護現場の窮状改善を

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 その人が、これまでどんな人生を送り、どんな人柄で、どんな生き方を望んでいるのか。その人を理解することが対人援助の原点だ。
 加齢や病気、障害などで困難を抱えても、その人らしさを生かして支えていく。
 ところが今、介護施設の入所者に、職員が危害を加える事件が後を絶たない。
 本県出身の男性が8月、入所していた東京都内の老人ホームで殺害された。男性は盛岡一高を卒業後、大阪や東京で校長などを務め、国際的な人材育成に尽力。温厚で紳士的な人柄で、人望も厚かったという。
 警視庁は今月、元職員の25歳の男を殺人容疑で逮捕した。容疑者は「何度も粗相で布団などを汚され、いいかげんにしろと思ってやった」などと供述。男性を、ごく一面的にしか理解していなかったことがうかがえる。
 近年は、虐待件数も増加傾向にある。なぜ、こうした事態が起きているのか。背景には、介護現場の深刻な人手不足が解消されていないことが大きい。
 2006〜11年度の統計によると、虐待した施設従事者の年齢は30歳未満が多い。昨年、川崎市の老人ホームで起きた連続転落死事件で逮捕された元職員も20代だ。介護のスキルが乏しい若手職員が、入所者の対応にストレスを募らせ、虐待、殺害に至るという構図がある。
 過重な労働環境を背景に人が集まらず、ストレス過多が常態化。結果的に、経験が浅かったり、資質に乏しい職員でも雇わざるを得ない。
 また、かねて指摘されている施設の閉鎖性も、大きな問題。虐待の発覚の遅れが、さらなる事態悪化を招く。
 地域に開かれた施設づくりを進める必要がある。人材育成の観点では、職員が施設内に閉じこもらず、地域の多様な専門職と共に学ぶことも、より良いケアの提供につながるだろう。
 その点、心強く思うのは、東日本大震災で大きな被害を受けた本県沿岸部で、若い対人援助職が着実に力をつけていることだ。事例検討会などの場では、本人や家族が抱える複合的な課題を解決するため、活発なアイデアが出る。
 対人援助の原点である「その人らしさ」を大切にした支援の模索を、今後も積み重ねてほしい。
 安倍首相は所信表明演説で、20年代初頭までに50万人分の介護の受け皿を整備する目標を掲げ、介護人材確保への取り組みの強化や、他の産業との賃金格差をなくしていくため、さらなる処遇改善を表明した。
 介護現場がこれ以上疲弊しないためにも、着実な実行が求められる。
 

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