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【朝日新聞】 文化財の活用 万全の保存あってこそ

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 「観光立国」のためならば、多少の疑問や危うさには目をつぶる、ということか。
 文化庁の審議会が、文化財に関する様々な規制を緩め、地域おこしなどにも活用できるよう促す答申を出した。保存に重点をおいてきた従来の方針からの転換だ。研究者団体などの慎重意見もあるなか、約半年の議論でスピード決着させた。
 答申によれば、独自に文化財の保存・活用計画をつくった市町村に対し、地域の建物や生活用具などを「登録文化財」にするよう、国に提案できる権限を与える。教育委員会の下にある文化財保護の担当部署を、首長直轄の部局に移管できるようにする考えも盛り込まれた。
 個々の文化財の取り扱いも見直す。美術館など所有者でない第三者が文化財を展示する際、石や土、金属で作られた美術工芸品の国宝・重要文化財は、公開できる日数の上限を年間60日から150日に延ばす。
 「活用」に前向きに取り組むこと自体は理解できる。
 近年、地域の歴史や文化、伝統的なくらし方への関心は高まっている。文化財が人々に開かれ、より身近で魅力的な存在になることで、保存への機運が盛りあがる。そんな循環ができれば望ましい。少子高齢化や過疎に悩む地方が、活気を取り戻すよりどころにもなるだろう。
 ただ、この国の文化財の多くはもろく、すぐに劣化する。活用に傾くあまり、保存がなおざりになれば、取り返しがつかない事態を招きかねない。
 急ぐべきは、両者のバランスを判断する力をもつ専門家の育成と配置、そしてその能力を発揮できる環境づくりである。
 思い出すのは「一番のがんは学芸員。観光マインドが全くない。この連中を一掃しないと」という、4月の山本幸三・前地方創生相の暴言だ。学芸員の仕事に対する理解を欠き、先人が長年守ってきた遺産を、単なる金もうけの道具としかとらえない考えが透けて見えた。
 最近は文化庁も「文化でかせぐ」をアピールする。だが、目先の利益とは別の価値を大切にし、その意義を説くことこそ、本来の役割ではないか。
 国や都道府県は市町村をどうチェックし支えるか。いかなる予算措置が必要か。文化財行政が首長の傘下に移ったとき、観光・開発優先に走ったり専門職員の声が届きにくくなったりする危険を、どうやって防ぐか。
 答申を受けた文化財保護法の改正案が国会に提出される。課題や懸念について、ていねいで多角的な審議を期待したい。

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