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【毎日新聞】 論始め2018 マネー資本主義の行方 人類の知が試されている

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 世界を震撼(しんかん)させたリーマン・ショックから今年9月で丸10年となる。米証券大手、リーマン・ブラザーズの倒産を引き金に、地球上の金融が凍り付き、何千万もの市民が職や家を失った。
 ディック・ファルド氏(71)は、破綻までの14年間、最高経営責任者(CEO)としてリーマンに君臨した。破綻前の年俸は約40億円だったと伝えられる。
 破綻後、彼はどうなったか。
 刑事訴追を受けることもなく、現在は富裕層向け金融サービス会社のトップにおさまっている。目下、事業の拡大中だ。危機後も自らを「筋金入りの資本主義者」と呼んではばからない。
 金融危機のあおりで失職した労働者が危機前の経済状態に戻ることは、容易ではない。二度と戻れない者もいる。半面、ファルド氏のような、危機の責任がある金融界の大物たちは、いつの間にか復帰を果たす。それはなぜか。
 「欠陥だらけ、継ぎはぎだらけの金融市場には、明らかに(利潤を得る)機会が存在する」。ファルド氏の言葉だ。低コストで多額の投資資金を調達できる一部の人々は、市場の不完全さをつくことで、巨万の富を手にする。
 「マネー・マネジャー資本主義」--。米国の経済学者、故ハイマン・ミンスキーは、資金運用のプロたちが牛耳る資本主義をそう呼んだ。
 顕著になったのは1980年代以降である。富を運用するマネー・マネジャーらは、最新の技術や情報を駆使し、短期的な投機に走る。舞台は地球全域だ。が、結局、行き着く先はバブルと、その崩壊が招く深刻な不況である。
 しかしそこで中央銀行や政府が救済に乗り出す。市場には大量の資金がばらまかれ、大手金融機関は公的資金で救済される。財政出動も行われる。市場はやがて復活し、再び投機の歯車がフル回転を始める。
 マネー・マネジャー資本主義の中で巨大化したのが複雑な金融派生商品(デリバティブ)だ。
 先進国における高齢化の進行で、運用を必要とする年金資金が増大した。一方、経済の成熟に伴い、従来型の手法では高い運用利回りが望めなくなった。
 そこで高いリスクの代わりに高利回りが期待できるデリバティブに資金が向かったのである。
 最大時より縮小したとはいえ、世界のデリバティブ市場は今でも500兆ドル(約5・6京円)を超えると言われる。1200兆ドル(約13・5京円)との試算もある(ビジュアル・キャピタル、10月末時点)。500兆ドルだとしても、世界の国内総生産(GDP)の合計の約7倍だ。
 世界経済がバブルとその崩壊を繰り返す過程で、富める者にますます富が集中し、打撃を受ける中間層はどんどん細っていく。
 マネー・マネジャー資本主義の本拠地、米国の場合を見てみよう。80年当時、所得で上位1%にあたる人々は国全体の所得の約11%を占めていた。一方で、下位50%の人々はその倍の20%強だった。
 ところが、2016年には、上位1%が国の所得全体の20%強を占めるまでになった。そして、下位50%のシェアは約13%まで低下した。(世界不平等リポート=WIR、トマ・ピケティ氏ら)
 本来、格差縮小の調整役となるべき政府(国家)は、度重なる金融危機対策などを経て財政余力がほとんど尽きてしまった。日本は特にそうだ。リーマン・ショック以前よりもろい状態といえそうだ。
 さらに、目指すべき方向と逆行するように、主要先進国の政府は、大企業や富裕層を優遇する税制へ傾斜している。金融危機後に米国で導入された再発防止のための規制は、トランプ政権によって骨抜きにされつつある。
 資本主義は、人類の進歩に欠かせない新たなアイデアの実現を可能にするなど、プラスの面があることは間違いない。我々に与えられた課題は、いかにして、マネーの暴走に歯止めをかけ、マネー主導の資本主義に内在する格差拡大のメカニズムを制御するか、だ。
 難題である。しかし、放任主義では、いつか世界は修復しがたいほどの打撃を被るのではないか。人類の英知を集め、地球規模の協調で乗り越えるしかない。

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