Home > 社説 > 地方紙 > 近畿地方 > 京都新聞(京都府) > 【京都新聞】 「1強」に望む  異論を包摂する懐の深さを
E200-KYOTO

【京都新聞】 「1強」に望む  異論を包摂する懐の深さを

そう思わないそう思う (まだ投票していません)
Loading...

 国政選挙の予定のない今年、安倍晋三首相の政権運営は、9月の自民党総裁選をにらみつつ進められることになる。
 衆参5回の選挙に勝ち、権力基盤を固めた首相の総裁3選を阻む要素は今のところ見いだしにくい。昨年12月の講演で首相が「2020年を日本が生まれ変わる年にしたい」と憲法改正への意欲を改めて語ったのも、3選への自信の表れだろう。
 「1強」体制は6年目に入り、野党勢力は分裂し「多弱」状態が続く。首相官邸に人事権を握られている霞が関の官僚たちも沈黙しがちだ。透明な議論、十分なチェックのないままに、2兆円の政策パッケージや財政健全化の先送りが決まった。
 直言や異論が出ない状況は、かえって国民の政権への不信を高めかねない。長期政権のおごり、緩みに対する強い批判を受け、与党内の空気にもわずかながら変化の兆しがある。
 政策論議を萎縮させるのではなく、闊達(かったつ)なやりとりを促す懐の深さこそ、首相に求められよう。
 皇室制度の議論広く
 時代が動く時には、とりわけ少数意見や異論を包摂し、丁寧に合意形成を図ることが重要になる。
 天皇陛下が来年春に退位し、皇太子さまが新天皇に即位する。退位は200年ぶりで、前回は江戸時代後期の光格天皇の例にまでさかのぼる。
 戦前の旧宮内省の文書に退位に関する儀式や行事の記録があるとはいえ、現代にはそぐわない部分も少なくない。皇室の伝統を重んじつつ、今にふさわしい儀式はどうあるべきか、新元号を含めて政府を中心に検討することになる。
 あわせて主権者である私たちに問われるのが、皇族の減少と高齢化への対応だ。退位特例法は付帯決議で、女性宮家創設などの速やかな検討を求めている。特例法の制定過程で政府側がヒアリングした専門家には、若手や女性が少なかった。今後の皇室改革論議では幅広い層の意見を反映する工夫が欠かせない。
 憲法に定めのない「公的行為」の位置づけなど、象徴天皇制の在り方そのものについても、この機に国民的議論を深めたい。
 もう一つ、「国のかたち」に関わる重要な問題がある。
 「専守防衛」と整合は
 自民党は1月召集の通常国会で、憲法改正案の提出をめざしている。党内がまとまれば9条改正に踏み込むとみられる。年内に改憲発議、国民投票の実施を-との声もある。
 首相は自ら、9条への自衛隊明記を提案している。そうした中で、政府は北朝鮮の核・ミサイル開発をけん制するため、航空自衛隊の戦闘機に搭載する長距離巡航ミサイルの導入方針を固めた。事実上の敵基地攻撃能力の保持との見方がある。
 歴代内閣は、自衛のための敵基地攻撃は憲法上、可能だとしている。しかし、従来の「専守防衛」政策との整合性は必ずしも明確ではない。海上自衛隊の護衛艦を、空母に改修する構想も浮上している。
 北朝鮮の一連の軍事挑発は決して容認できない。と同時に、日本が防衛費を増やし「抑止力」を高めることが、北朝鮮の核・ミサイル放棄につながる保証はない。
 「危機」や「対話よりも圧力」といった言葉が強調されるなか、それが自らを縛り、政策の硬直化を招かないか-。そんな懸念もある。
 大きな節目に向けて
 同じことは、政治家だけでなく私たち一人一人にも言えるのではないだろうか。
 人は誰しも、知らず知らず一つの視点や立場にとらわれがちだ。昨年、漫画版がベストセラーになった吉野源三郎の戦前の小説「君たちはどう生きるか」(1937年刊)は、そのことを私たちに気づかせてくれる。
 旧制中学に通う主人公の15歳の少年が「叔父さん」との交流を通じて成長する物語。第1章で語られるのが<自分ばかりを中心にして、物事を判断>することへの自戒だ。
 叔父さんはこれを、天動説から地動説への転換をもたらした16世紀の天文学者コペルニクスを引き合いに出して説く。<日常僕たちは太陽がのぼるとか、沈むとかいっている><しかし、宇宙の大きな真理を知るためには、その考え方を捨てなければならない。それと同じようなことが、世の中のことについてもあるのだ>
 おそらく、少なからぬ人々がこうした言葉を指針にしようと、本を手にしているのだろう。
 国政選挙はないものの、京都、滋賀ではそれぞれ知事選が行われる。4期16年務めた山田啓二京都府知事は退任を表明している。4月8日の投開票に向け、京都政界では後継をめぐる動きが加速しよう。
 来年には「平成の終わりと改元」のほか、統一地方選、参院選、消費税率10%への引き上げ-と国内政治は大きな節目が続く。
 今年はそれらへ向かう助走期間ともいえる。未来に対する思考力が問われる年である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。