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【信濃毎日新聞】 あすへのとびら 立科町のポプラの木 わだかまりを乗り越えて

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 守りきれなくてごめんね―。北佐久郡立科町の60代の女性から、こう記された経過報告が届いた。
 守れなかったのは、立科小学校にあった3本のポプラ。25年前、6年生と親たちが植えた卒業記念樹だった。
 町道の拡幅に伴う伐採計画に、卒業生らは署名を集めて撤回を求めてきた。町は代替案も検討しながら、最後は住民への十分な説明もなく切り倒している。
 「後味が悪い」。対話の不足は町政への住民の不信感を高めている。自治体を取り巻く状況を考えると、そのことが気にかかる。
 経過を振り返ってみる。
 町が伐採を計画したのは2016年の夏だった。立科小を通じて保護者に通知された。これを知った卒業生たちが切らないよう訴えると、町は記念樹と把握していなかったとして計画を延期した。
 昨年7月になって、改めて伐採を告げる通知が小学校の保護者の元に届く。今度も卒業生の親たちが役場にかけ合い、計画は再び先送りされた。
 卒業生は8月、ポプラの木の下に集まり、思い出話をしながら自分たちにできることを考えた。親の協力も得て3千人の署名を集め、町に見直しを迫った。
 転機は10月だったろう。
 ポプラの保存を求める住民側と町側との話し合いの場が設けられた。ここで米村匡人町長は「移植する」との方針を示した。
 移植には1200万円の費用が要る。出席した60代の男性は「自分たちの思いを通すために多額の公金を使っていいのか、戸惑いが生じた」と振り返る。
 住民側は町長の方針をのみ込めず、現地保存を主張。折り合わないまま「対応は町に任せる」として散会した。町が伐採を伝えてきたのは、この数日後だった。
 
 
 <足りなかった対話>
 「なぜ伐採に戻ったのか」。卒業生らは反発した。
 町側にも言い分はあろう。現地保存でも設計変更で相応の費用がかかる。現地に残す場合には、ポプラを管理するよう住民に求めたが、積極的な返答はなかったという。昨年の台風で枝が落ちた際も片付けたのは職員で「保存を訴える住民の姿はなかった」とも。
 だとしても、町側の説明不足は否めない。意思疎通を欠き、次代を担う30代後半の卒業生たちの反感を買ったことは、町にとって痛手に違いない。
 自治に関心を抱くきっかけは、身近な問題からもたらされることが多い。その施設は、その道路は必要なのか。多額の税金を投じて造る価値があるのか、と。
 県内では例えば、長野市の市民会館と市庁舎の建て替えや、安曇野市の本庁舎新設を巡り、市民が是非を問う住民投票条例の制定を直接請求した経緯がある。リニア中央新幹線整備に対しても、南信地区の住民が、地域の財産である生活環境、自然環境を損ねるとして反対の声を上げている。
 行政は往々にして、議会の議決を得ていることを盾に「反対するのは一部の住民だ」とし、まともに取り合おうとしない。
 松本市では昨年、松枯れ対策で市が計画した薬剤散布に、子どもの健康を気遣う母親らが待ったをかけた。署名を集めた市民の面会要望に菅谷昭市長は応じず、差し止め訴訟を招いた。
 
 
 <地域の将来の鍵に>
 日本の人口は50年後、8800万人まで減る見通しだ。東京圏への一極集中が問題視されるが、都市部の若年層も減っている。団塊の世代全員が75歳以上となる2025年を境に、東京都でも超高齢社会の問題がより深刻化する、と指摘する識者もいる。
 大都市で徴収する税金が減り、地方への配分額も目減りすれば、自治体財政は一層苦しくなる。
 行政サービスの水準が保てなくなったとき、住民にどんな役割を担ってもらうのか。どれだけの負担を引き受けてもらうのか。行政と住民がともに担う自治―は、もはや理想論ではない。地域を維持する鍵は信頼関係だ。
 関心を持てばこそ行動する住民は、行政とは異なる価値観から地域のありようを考えている。対話をおろそかにしては、未曽有の人口減少、高齢社会に応じる柔軟な策も出てこないだろう。
 ポプラの経過報告に「これからも町政に関心をもって、生きていきたい」との一文があった。卒業生の一人は「興味がなかった町政に関心が出てきた」と言う。
 米村町長も「卒業生ともっと話し合うべきだった。厳しい時代だからこそ、町民一人一人の声を町政に生かす姿勢を大事にしていきたい」と話している。
 ポプラは切られてしまったけれど、立科町の皆さんはわだかまりを乗り越えて、これからの地域づくりの糧としてほしい。 (2月11日)

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