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【北海道新聞】 司法取引 冤罪防ぐ方策が見えぬ

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 捜査機関にとっては強力な切り札となろうが、冤罪(えんざい)を生む危険性がまったく拭えていない。拙速な導入は避けるべきだ。
 政府は6月から、刑事司法改革の一環として司法取引制度を実施する方針だ。
 容疑者や被告が共犯者らの犯罪を明らかにした場合、検察官はその見返りに起訴を見送ったり、求刑を軽減することができる。
 問題なのは、自分の罪を軽くするために虚偽の供述をし、他者に罪をなすりつけたり、ことさらに重い罪を負わせたりする可能性が否定できないことだ。
 にもかかわらず、ぬれぎぬを防ぐ手だては極めて不十分だ。いったん立ち止まって、制度設計を入念に見直す必要がある。
 司法取引は薬物・銃器事件や詐欺、横領などが対象だ。実施には検察官と容疑者・被告の合意や弁護人の同意が要る。
 高齢者を狙った特殊詐欺や暴力団の犯罪など、末端の容疑者を逮捕しても首謀者に捜査が及ばないケースは少なくない。
 組織の全容を解明する手段として、当局は司法取引を重視しているのだろう。
 だからといって、事件に無関係な人や関与の度合いが薄い者が陥れられてはならない。
 政府は、虚偽供述に対する罰則や弁護人が関与する仕組みがあるため、他者を巻き込む恐れはないと強調する。
 果たしてそうか。逆に、罰則を免れるため、うそをつき通すことも考えられる。弁護人の関与にしても、容疑者や被告側の立場であり、虚偽供述を十分にチェックする役割は望めまい。
 一般的に、利益誘導によって得られた供述は信用性が乏しいという欠点もある。
 司法取引に頼るあまり、地道な捜査や裏付けがおろそかにならないか。この点も気がかりだ。
 そもそも一連の刑事司法改革は、大阪地検特捜部による証拠改ざん事件を教訓に、冤罪の防止や捜査の適正化を図ることが主眼だったはずである。
 ところが、捜査機関に都合のいい通信傍受の対象拡大や司法取引が先行し、肝心の取り調べの録音・録画(可視化)の一部義務化は後回しにされている。
 本末転倒ではないか。
 可視化は裁判員裁判の対象事件などに限定せず、全ての事件と任意捜査段階にまで広げねばならない。政府が急ぐべきは、その道筋をつけることだ。

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